森戸辰男事件とは?クロポトキンや森戸さんと憲法の関わりも

森戸辰男事件とは

 

森戸辰男事件(もりとたつおじけん)というのは西暦1920年(大正9年)に起きた出来事です。当時東京帝国大学の助教授であった森戸辰男という人がクロポトキンという人物の思想を取りあげた論文を東京帝国大学の経済学部が発行している雑誌で発表したのですが、この内容について非常に問題があると判断した同じ大学内の人たちから森戸さんは糾弾されました。森戸さんが発表した内容というのは思想の研究などというものではなく、クロポトキンという人物が主張している無政府主義が素晴らしいと称賛するものにすぎない。このような内容の論文が許可されるのならば日本国内に無政府主義思想が広まりこの思想を支持し日本国の存在を否定する者が増加してしまう危険性がある。そのように森戸さんを攻撃した人たちは考えたようです。大学側は森戸さんを休職処分にしました。日本国政府も森戸さんが発表した論文の内容を危険視しました。当時の治安当局は森戸さんがクロポトキンの論文を発表したのは新聞紙法の朝憲紊乱(ちょうけんびんらん)にあたると判断し森戸さんは政府から訴えられ裁判で有罪となりました。朝憲紊乱というのは日本国の政府など国が成り立つために必要な組織を不当な手段によって変えたり破壊するような行為のことを意味します。森戸さんの論文が掲載された雑誌は人目に触れないようにという目的で回収され、森戸さんは裁判で3か月の禁固刑となり70円の罰金も科せられることとなりました。禁固刑というのは刑務所に入れられ拘束される刑罰のことです。(刑務所に入れられて作業を科せられる懲役刑とは違います。)大正9年の小学校の先生の初任給が50円だったという指摘もあるようですから、罰金70円というのはひと月の収入ぐらいの金額といったところでしょうか。こうして森戸さんは東京帝国大学の助教授職を辞めなければならなくなってしまいました。これが森戸辰夫事件です。日本政府は森戸さんを有罪としましたが、学問の自由を侵害する行為だとして政府の対応を批判する声も当時あったようです。

 

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クロポトキンについて

 

森戸さんが論文のテーマとしたのはクロポトキンという人物の思想でした(論文の名前は「クロポトキンの社会思想の研究」です)。このクロポトキンはロシア出身の人物です。クロポトキン家はもともと大変位の高い貴族でした(公爵)。しかしアナーキズムに関心を持つようになり、やがてロシア帝国の軍を退役し、実家からは勘当されてしまいます。アナーキズム、日本語にすると無政府主義と言うのだそうですが、このアナーキズムに分類される思想をクロポトキンはその後主張していきました。日本語で言う無政府主義というのは一人一人の人間がより自由でより独立した状態となることが理想だと考え、国や宗教、君主制度などといった人を従わせる、支配する権威を、人々の自由を奪う良くないものと位置付けてそのような社会の仕組みは無くさなければならないと考える思想のようです。クロポトキンはさらにその考えに財産の個人所有は良くないものだと見なし共同体の中でお互いが助け合い、財産は共同体が共同で所有するという共産主義のような考えも加えた思想を主張していたそうです。森戸事件が発生した翌年の1921年に78歳で亡くなっています。

 

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森戸さんと憲法の関わり

 

東京帝国大学を追われた森戸さんですが、その後はドイツに留学したり社会科学の研究を大阪にある大原社会問題研究所に所属して続けることになります。1945年に第二次世界大戦で日本が敗れましたが、森戸さんは憲法研究会を有志で立ち上げて新しい憲法の草案を世の中に発表しました。当時日本を支配していた連合国側の組織GHQもその内容に注目していたそうです。その後森戸さんは社会党所属の国会議員となります。日本国の憲法内容を議論する国会内の委員会の一員となり、森戸さんは憲法内に「国民が健康で文化的な生活を営む権利を持つ」という内容を盛り込むよう主張しました。結局この森戸さんの主張は採用され、新しい日本の憲法である日本国憲法の中に「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」という内容が25条として盛り込まれることとなりました。

 

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今回は森戸辰男事件を取りあげてみました。最近は大正時代の出来事を記事のテーマとして扱うことが多いのですが、この森戸事件と言うのは政府が学問の自由を弾圧した出来事として高校の日本史でも若干取り扱う話のようです。個人的にはこの出来事を今まで全く知ることが無かったためどんな事件だったのか調べてみたくなりました。知ることが無かったというか完璧に忘れているだけなのかもしれませんが。当時の学者さんにとっては世の中から危険だと見なされている思想を研究対象とすることはかなりリスクの高い行為だったようですね。アナーキズムという思想を今回一緒に調べてみましたが国や権威を良くないものと考える思想ですから、この思想を実際の日本の社会に当てはめると大日本帝国も、日本の神道も、皇室制度も良くない仕組みと判断されてしまうことになります。これは当時の日本の体制を支持する勢力から見れば確かにとんでもない考え方としか映らないでしょうね。個人の自由を大切にするという発想には民主的な考え方と似たような所はあるかもしれませんが世の中を治める国というものを否定するんですよね。国無しで集団の秩序って守られるものなのかなぁと個人的には非現実的に感じました。そもそも国の権力というのは普通の人々を無法者から守るという理由で存在する意味があるんじゃなかったでしょうか。国家権力が無かったら恐ろしい輩が人々を支配することになりかねないような気もしますし他の国からの侵略行為にきちんと対処出来なくなってしまうんじゃないでしょうかね。アナーキズムが実際の世の中に採用されたとしてもあまりいいことが無いような気がしました。

 

今回の記事は以上となります。最後までご覧いただき誠にありがとうございました。  <(_ _)>

※記事内容と掲載している写真に関係はございません。ご了承ください。

大学の教官が処分された他の出来事に関連した記事「京大が混乱した滝川事件とは?立命館大学の関わりについても」はこちらです。

憲法学者さんが非難された出来事に関連した記事「国体明徴声明とは?その内容や天皇機関説事件についても」はこちらです。

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