アメリカがTPPの枠組みから離脱した理由は何だったのでしょう
アメリカがTPPから離脱した理由
現在から見て少し前の出来事、アメリカの政治や経済に関係した話、国際的な経済の連携に関係した話について関心を持たれてこのページに来られた皆様、こんにちは!この記事ではアメリカ合衆国がTPPという多国間で締結される経済連携のための協定から離脱したという出来事に関し、その離脱を決めた理由が何であったのかということについて私なりに書いてみたいと思います。TPPというのは環太平洋パートナーシップ協定という名前の経済連携協定の略称です。我が国、日本をはじめとしてオーストラリア、ニュージーランドといったオセアニアの国や北米のカナダやメキシコ、ベトナムやシンガポールといった東南アジアの国々、チリやペルーといった南米の国も参加に前向きで国内での承認を進めているという多くの地域の国々が参加する協定となっています。この協定に参加する国々の間で貿易をおこなう際に貿易品目の関税を撤廃、あるいは相当な水準に下げることが決められているそうです。また物品の関税の引き下げにとどまらず、サービスや投資に関する規制の緩和や知的財産、政府調達(せいふちょうたつ 国や地方行政機関が物品やサービスを購入したり一定期間借りたりすること)などを含め、その他にも多くの分野について加盟国間で規則を作り経済連携をしていく枠組みとなっています。加盟国の市場に自国の強みとなる輸出品目を売り込んで大きな利益を得る機会ということもあって日本でも様々な意見がありましたが結果的には協定に参加する判断をしています。しかし協定に関する交渉が進められていた時想定されていた状況とは大きく変化した状態でTPPは船出することとなります。世界経済の中で大きな割合を占める(世界のGDPの約4割をアメリカが占めています)アメリカ合衆国がTPPからの離脱を明確に表明したのです。アメリカが離脱をしたのは平成二十九年、2017年のことです。アメリカが離脱したことで参加した国々が交渉によって決めていたTPPの当初の協定内容は実現することが出来なくなり、その後残った参加国によって交渉が再度行われました。内容が変更されたTPPはCPTPPと少し名前が変わりましたが2018年の年末に発効することとなります。途中まで参加する姿勢であったアメリカ。どうしてTPPからの離脱を決定したのでしょう。政権が変わったこと、新しい政権がアメリカ国内の雇用環境を守ろうとしたことなどが理由となっている、そのような指摘が多いようです。
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2016年の選挙で新しい政権に
アメリカがTPPに参加することを前提に交渉を進めていた頃の政権はバラク・オバマという人が大統領となっていたオバマ政権でした。オバマさんは民主党の大統領候補として2008年の大統領選挙で共和党の大統領候補に選ばれたジョン・マケインさんと争い勝利した人です。オバマさんが翌年、2009年1月に正式に大統領に就任、オバマ政権が誕生しました。アメリカの大統領の任期は長くても二期、八年間までとなっています。そのためオバマさんは2016年の大統領選挙で勝利した人物が正式に大統領に就任する2017年1月で権力の座を新大統領に明け渡します。2016年11月の大統領選挙で争ったのは共和党候補のドナルド・トランプさんと民主党候補のヒラリー・クリントンさんの二人でした。このお二人、選挙期間中TPPについてオバマ政権とは異なる姿勢をとり、有権者に訴えていたようです。共和党候補のトランプさんはTPPに反対と明確に表明していました。一方の民主党の候補であるヒラリーさんは大統領選挙に出るにあたってTPP反対の立場となりました。もともとオバマ政権内で国務長官という重職を担当していたヒラリーさん。オバマ政権を支えていた時にはTPPに賛成の立場でした。しかし民主党内の大統領候補選びの段階でバーニー・サンダースさんという人と民主党候補の座を争いました。サンダースさんを支持し強硬にTPPに反対している有権者も多く、そういった人々の支持を取り付けるためにもTPP反対の立場に転じたと見られています。そのため2016年の大統領選挙を争った二人の候補は共にTPP反対の立場でした。ご存じの通り2016年の選挙はトランプさんが勝利し、選挙期間中の公約通り、大統領に就任して間もなく(2017年1月23日)TPPから離脱する大統領令に署名しました。もともとオバマさんは任期中にTPPをアメリカ連邦議会で承認してもらおうと考えていたのだそうですが、議会内での反対意見が強くオバマさんの思惑通りには進みませんでした。もしヒラリーさんが大統領になっていれば大統領就任後にTPP賛成に立場を変えるだろうといった見方もあったのだそうです。こうしてオバマ政権後に誕生したトランプ政権はTPP反対。そのためアメリカはTPPからあっけなく離脱しました。
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なぜトランプ大統領は反対だったか
ドナルド・トランプさんという人は不動産事業で結果的には成功した、やり手の経営者としてすでに国中に知られている人でした。彼はアメリカを再び偉大な国にすると支持者に訴えて強力な他候補との争いに勝利し共和党候補に選ばれ大統領となりました。彼は選挙を通してアメリカ国内の白人労働者の利益にかなうような主張を続けました。その一つがTPPからの離脱でした。トランプさんはTPPに加盟することでアメリカ国内の自動車産業をはじめとした製造業で仕事をしている人々の雇用環境が悪化することを回避したかったようです。アメリカはそれまでNAFTA(北米自由貿易協定)というカナダ、アメリカ、メキシコの三カ国が締結した経済協定を維持し続けていましたが、この協定によってアメリカで稼働していた製造業の工場がアメリカ国内から人件費の安いメキシコなどに移転をしてしまう結果を招きました。この流れが続くことで製造業が盛んだったアメリカの一部の州では働き口が減少することとなったのです。NAFTA加盟によって米国のGDP、国内総生産は増加したかもしれませんが、製造業の工場労働者の方たちはその経済成長の恩恵から外されていってしまいました。国家間の規制を緩和する潮流が強まっても自分たちには得にならないという考えがアメリカの労働者の人々の間で強まったようです。そういった背景のある中で今度はTPPに加盟するという話が浮上。TPPに加盟することになれば製造業の盛んな国からそれまで以上に自動車などの輸入品がアメリカ国内に攻勢をかけてくることとなり、アメリカ国内の製造業は更に衰退してしまうと予想されました。オバマ政権はもちろんTPPに乗り気でしたが、TPPについてアメリカ国内では一般国民からの反対も根強かったのです。アメリカ国内の労働者の人々は経済の規制緩和によってこれ以上雇用が奪われるのは御免だ、大企業ばかりが儲かるだけではないかと当時の政治状況に不満を強め、過去に大統領を輩出した名門の家柄、政治分野での華麗な経歴を持った人物といえども経済の更なるグローバル化を目指すような候補は支持を集められなくなりました。結果勝ち残ったのは政治の世界でこれまでさしたる実績を残したことも無く、お世辞にも言動に品があるとは言いにくい、しかし核心を突く主張をおこない労働者の方々の懸念を払しょくすることを公約に掲げるトランプさんでした。トランプさんはアメリカ国内の労働者の方々の経済状況を改善させることを通してアメリカを再び偉大な国に戻すことを目指しました。
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今回はアメリカがTPPを離脱した理由について一部取り上げました。令和二年(2020年)の大統領選挙にあたって民主党内での候補者選びが新型コロナウィルス拡大の中でもある程度行われていきました。民主党のいわゆる「左派」の候補者バーニー・サンダースさんが民主党内の候補者選びの序盤では各州の予備選で勝利していたものの、民主党の、これまたいわゆる「中道派」のバイデンさんという人が今回は三月三日でしたが、大抵は三月の第二火曜日に多くの州でおこなわれる予備選、「スーパーチューズデー」に勝利することとなりました。アメリカ国内全体としてはバイデンさんが民主党大統領候補にかなり近づいているような状況で今回の記事を書いております(令和二年四月辺り)。バイデンさんはご存じの方も多いのでしょうがかつてのオバマ政権で副大統領を担当していた大物です。そんなバイデンさん、通商政策については現在トランプ政権がやっているような対中国の関税引き上げには反対という立場で、今回の記事でテーマとしたTPPについてはアメリカが参加することに賛成する立場なのだそうです。TPPを推進していたオバマさんの下で副大統領をしていた人なのですから、TPPに賛成というのは当たり前と言えば当たり前なのかもしれません。今回の記事を作っていてアメリカ国内の労働者の方々はもし大統領選がトランプさん対バイデンさんとなることがあればTPP推進のバイデンさんよりもTPP離脱維持の立場であるトランプさんを選ぶのはおのずと明らかなような気がしてしまいます。バイデンさんが大統領になってTPPに加盟するようなことがあれば、やはりアメリカ国内の製造業は他国の企業との競争が厳しくなり人件費を安くするために工場を国外に移したがることでしょう。そうなったらアメリカの雇用がトランプ政権の時より減少してしまいます。そうなってしまってはアメリカ国内の労働者の方々にとっては損な話です。トランプ政権が2017年に始まってからの失業率はどうなっているか見てみましたが、IMFによれば2017年のアメリカの失業率は4.35%、2018年は3.89%、2019年は3.73%と見事に下がっていきました。2019年の数字は1980年以降のデータを見ても一番いい数字となっているようです。こうした点を見ても労働者の方々はトランプさんに相当感謝しているのではないでしょうか。2020年の大統領選挙は本来であればトランプさんに相当有利な選挙となるところなのでしょう。しかし新型コロナウィルス感染拡大でアメリカ経済もかなり痛手を負いますでしょうし、どうなるのでしょうね。(という記事を令和二年の四月に書いていたのですが、ご承知の通りトランプさんは令和二年十一月の選挙に敗れた格好となりました。バイデンさんは今や合衆国の大統領です。)
今回の記事は以上となります。最後までご覧いただき誠にありがとうございました。 <(_ _)>
※記事内容と掲載している写真に関係はございません。ご了承ください。
今回の記事では写真ACが提供している画像を使用させていただいております。
トランプ政権時に始まった貿易戦争について触れている話「アメリカが中国産の製品に高い関税をかけてきた理由は」はこちらです。
経済連携の一つNAFTAについて触れている話「NAFTAとは?読み方や意味、メリットや問題点について」はこちらです。
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